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タクシーの女《サスペンス》

ここは都心部から大分離れた駅。
終点だった。

『しまった。
寝てたんだ....。』

既に電車は走っておらず、男は寒空の下へ放り出される形となってしまった。

『さて、どうしたものか。』

駅を出た男はタクシーで帰る事にした。

週末にはどのホテルも満室で、歩き回るだけ無駄だと思ったからだ。

幸い客待ちのタクシーがいた。

『すみません。
ちょっと遠いのですが、』

ハンドルを握るのは、女性の乗務員だった。

『大丈夫ですよ。
どうぞ。』

『有り難い。』

男が乗り込むと、タクシーはすうっと滑らかに発進しした。
女性らしく細やかで丁寧な運転で、心地良かった。

『運転手さん。タクシーに乗ってきた女性が幽霊だったなんて、よく聞く話ですけど、まさかあなたが幽霊、なんて事ないですよねぇ?』

『いやですわ~。
お客様ったら。』

女性乗務員は楽しげに笑った。

『電車を乗り過ごしてしまわれたんですね?』

『そうなんです。
つい深酒をしてしまって...』

『悩み事でもおありかしら?』

『ああ...そうなんだ....実は....。』

男は、自分の抱えている大きな悩みを、つらつら話し始めた。

『何だかひどい話しですね..。』
『もう死んでしまいたい...。』

男は呟いた。

『よくわかりますわ...。』

二人はそれからしばらく黙ったまま、ラジオから流れる音楽を聴いていた。

『私、今日でこの仕事辞めるんですよ。
あなたが私にとって最後のお客様。』

『そうなんだ、もったいない。
でも最後の客になれて、光栄ですよ。』

『私も、最後が誠実な方で良かったわ。』

『ところで、さっきから気になってるんですが、対向車のチカチカするハイビーム。

もしかすると、こちらのライト、ハイになってはいませんか?』

『あら?ライトはローのままよ。
トランクにあと二人、お客様が乗ってるから、
後ろが沈んじゃってるのね。』

『どういう事ですか!』

すると、助手席の下からうめき声が聞こえてきた。

『あら?まだ生きてらしたのね。』

男からは全くの死角だった。

『この男はね、後ろから私の髪や胸を触ってきたの。
トランクの二人は不倫カップル。
あなたの座っているシートの上で、始めちゃったのよ。』

男は息を飲んだ。

『許せないわ。
私の聖域を、汚らわしい欲望で....。』

『た、頼む..降ろしてくれ...。』


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Posted by Studio West at 2010年10月17日   01:19
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