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ノコの日記/第三話

学校にはどうやら、傘の手掛かりは無さそうだ。

『傘、笠、カサ、かさ~。』

僕はしばらく、町を歩いてみる事にした。

あの信号機の前にある青果店の店先で、ノコに後ろから目隠しされた事あったっけ。

すっかり忘れていた。
まるで記憶喪失だな。

僕は何だか自分が可笑しくなってしまった。

でも待てよ。
何だかにおかしい。
僕はノコが死んでしまった事以外、他には全く何も覚えて無い。

そこだけ記憶喪失のように...。

すると、これがフラッシュバックというのだろうか、僕とノコがが肩を組んではしゃいでる映像が、一瞬頭をよぎった。

『写真!?』

僕は家に駆け戻った。

『母さん!写真写真~!』

僕はありったけのアルバムと、写真を畳の上にひろげた。

『傘屋さんの次は写真展かい?
勉強の方は大丈夫なんだろうね?』

写真はどこにも無かった。
しかし、絶対どこかにあるはずなんだ。

誰かが撮った二人一緒の写真が...。

桜...?

そう、高校の入学式だ!でもそれ以上思い出せない...。

昼食をとった後、中庭に出た。
小雨が降っていて肌寒い。
僕は傘をさしてノコの事を思い出そうとした。
『よっ、水嶋クン。』

『ノコ。』

『傘、一緒に入ってもいいかな?』

『いいよ。』

『へへっ。』

『なあノコ。』

『何?』

『最初はノコって、あだ名だと思ってたんだ。』

『でしょ~。
工作好きのお父さんがつけたの。
変な名前だぜ。
鋸よ~。』

『変じゃないよ。』

『ヘンよ~。
お姉ちゃんはカンナ。
カンナの方がまだ可愛い。』

『俺、嫌いじゃないよ。ノコって響き。』

『水嶋クン...。』

『お父さんもきっと、可愛いと思って、この名前付けたんだと思う。』

『可愛いなんて、初めて。』

『ノコって、か、可愛いよ...。』

『な~に?
よく聞こえないなぁ~。』

『だっ、だから..
ノコって、可愛い。』

『男だろ!大きな声で!』

『ノコは可愛い!』

『ププッ、水嶋クン、
ありかと~う。』

多分今、僕の耳は真っ赤になってる。
顔から火が出そうだ。

『君と相合い傘なんて初めてよね。』

『そうだな。』

『何だかバカップルみたくな~い?』


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Posted by Studio West at 2010年10月15日   01:44
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