ノコの日記/第五話

Studio West

2010年10月15日 01:36

(バイバイ、サヨナラ、
水嶋クン。
本当にありがとう。)

『ノコ...ノコー!』

そしてノコは消えた。

僕はノコに関する記憶を、全て取り戻したんだ。
いっそ忘れたままなら良かった。
またノコと会えたのに。

泣き明かした翌朝、僕は重い足を引きずりながら、ゼミに向かった。

すると、ゼミの前では、心配そうに辺りを見回す髪の長いコがいた。

『水嶋くん!』

『澤村さん、どうかしたの?』

『いえ、あなたが昨日休んでたから...。』

彼女は同じゼミに通う子で、いつも何気に僕の側にすりよってくる。

大人しい感じだけど、芯の強そうな女性だ。

『はい、これ、昨日の分のノート...。』

『あ...ありがとう。』

思えば僕はこれまで、暖かく差し伸べられた誰かの手と、すれ違いながら過ごして来た気がする。

ゼミが終わると、僕は思い切って澤村さんに話かけた。

『昨日んトコ、詳しく教えて欲しいんだ..ダメかな?』

彼女は一瞬目を丸くして、それから嬉しそうにニッコリ微笑んだ。

『いいわよ。』

ノコ、僕はもう自分の心に鍵はかけないよ。
辛い事も悲しい事も、素直に受け止めて行く。
ありがとう。
ノコ。
風が吹き抜け、空を見上げると、また涙がすっとこぼれた。

『水嶋くん...。』

『ごめんごめん。
何でもない。
大丈夫!』

明日はノコの命日だ。
これまで顔を出さなかったのは、家族が気を悪くしてはいけないと思ったからだ。

でも明日は行ってみよう。
もしかしたら僕も、ノコの家族も、しっかり前を見て歩み出せるかも知れない。

そんな気がしたんだ。

『え~っと...こっちだったよな、ノコんち。
あったあった、ここだ。』

チャイムを押すのには、かなりの勇気が要った。

『ごめんください。』

『は~い。』

ノコの母親が顔を出した。

『あのぉ...ぼっ、僕
水嶋といいますが...』

『よく来てくれたわ。
水嶋くん。
上がって。』

『はあ?』

ノコの家族とは、そう親しい訳でもない。
入学式と告別式で顔を合わせたぐらいだ。

なのにノコの母親は、僕をよく知ってるみたいだ。

『これ、あの子の日記帳よ。』

『日記?』

ノコが日記をつけてたなんて。

『中学の頃、水嶋くんが日記に登場するの。
高校に入ってからは、毎日のようにアナタの事ばかり書いてるわ。』

『そうだったんですか....。』
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