老若男女を問わず、幅広い人気を誇る『ラーメン』が、遂に歌手としてのデビューを果たした。
バックのミュージシャンには、若手で注目される『チャーシュー』『メンマ』『煮卵』。
ベテランの『ネギ』『もやし』『鳴門』『海苔』等も、彼らには一目置いていた。
この、ラーメンを引き立てるバックバンドの事を、いつしかファンの人々は、こう呼ぶようになった。
その名も、
『ラーメンフレンズ!』
((ジャカジャ~ン))
(テーマソング)
....。
お昼と言えばラーメン。
受験勉強の夜食にラーメン。
飲み会の後にラーメン。
中国生まれのラーメンは、今や日本人の心の頼どころ、暮らしの中の潤滑油とも言える程、生活の中に溶け込んで行ったのだった。
特に冬の寒い日のラーメンのコンサート会場には、入り口の外にまで行列が出来る程だった。
『は~い!チケットあるよ~!』
コンサート会場につきものの『ダフ屋』だ。
列を往復しながら、買う、売るを繰り返している。
(みんな、今日はアタシのコンサートに来てくれて、本当にありがとう!
最後の曲です。
雨の中華街!)
コンサートは大声援に包まれながら、幕を閉じた。
そんなラーメンにも、人気下降の兆しが...。
『暑いね~。』
『お昼、ざる蕎麦!行きませんか!』
『いいね~。』
根強いファンはいるものの、冬場のような勢いは無くなっていた。
ラーメンは、芸能界での生き残りを果たす為に『冷やし中華』へと活動を切り替えた。
またもや大ヒット。
飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
そんな最中、ラーメンの新曲を作っているレコーディングスタジオで、ラーメンフレンズの一人が呟いた。
『なあメンマくん..』
『何だい?』
『俺たちそろそろ、お払い箱かな...?』
チャーシューが寂しそうに言うと、煮卵が口をはさんだ。
『そんな事無いわ。
今年もまた冬はやってくるんだし。』
『君は呑気だなあ。
従姉妹の錦糸卵さんに、ポジションを奪われてるんだぞ。
僕だって親戚のハム君にベーシストの座を取られてしまったんだ。』
するとメンマは言った。
『君らなんかまだマシさ。
僕なんか、赤の他人のキュウリに取って代わられたんだ。』
『ネギ先輩やもやし先輩達は、他にも引く手あまただけど、私達つぶしが利かないわね。』
『俺は降りる。』
『待ってくれ!チャーシュー君!』
『お願い!考え直して!』
『楽しかったよ...。
サヨナラ。』
数日後チャーシューは、ベテランのネギと組んで『チャーシュー丼』を大ヒットさせた。
『煮卵さん、俺たちも何か考えなきゃ...。』
『そうね..。
寂しいけど、仕方ないわ。』
次の日から煮卵は、自分を売り込むために走り廻った。
『サラダに使ってもらえないでしょうか...?』
『う~ん、ウチはもっと若い煮卵しか使わないんだよ。
君は出汁に染まってるし、八角の匂いがする。
サラダには向いてないよ。
すまない、こればっかりは....。』
煮卵はガックリと肩を落として帰路についた。
『いまさら年のコト言われるなんて、思わなかった...。』
煮卵は悲しくなり、電車の中で一人泣いた。
そんな時、追い討ちをかけるように訃報が入った。
これまで、ラーメンとラーメンフレンズ達を可愛がってくれていた、敏腕プロデューサー
『どんぶり』が、不慮の事故のため、この世を去ったのだった。
どんぶりだけに、器の大きい男だった。
葬儀にはメンバーの他、作家の『塩』『醤油』『味噌』も参列し、深い悲しみを分け合った。
『俺たち、これからどうする....。』
『もう、戻れないのかな....。』
『今は何も考えられないわ...。』
ラーメンフレンズも、ファンも、自分達の輝いた青春が夢であったかのように、虚しく消えてしまうのだと。
誰もがそう感じていた。
だが、それから1ヶ月後、どんぶりの遺志を受け継いだ、若いどんぶりが名乗りを上げた。
いわゆる、創作ラーメンをプロデュースする、丸っこい者ではなく、
キレのいい逆三角形に、オーソドックスな中華マークと、
底には見事な鳳凰が誇らしげに舞う、非の打ちどころの無いラーメンどんぶりだった。
(ラーメンフレンズ再結成!)
(ラーメン伝説!再び!)
マスコミは彼らを放ってはおかなかった。
コンサート会場には、これまで以上に、大勢のファンが押し寄せた。
『みんな、今まで心配かけてゴメンね。
新曲です。
聴いてください!
ラーメンフレンズ!』
ラーメンとラーメンフレンズの、永遠の友情を誓ったバラードに、ファンは涙を流した。
お昼ご飯の後片付け中に、誤って割ってしまったラーメンどんぶりのカケラを拾い集めながら、
とりとめもない妄想をしてニヤついていると、ソファに腰掛けながらテレビを見ている主人が話しかけてきた。
『なあ、今日は子供たちも出掛けてる事だし、たまには夜、二人で外食でもしないか。
お前が好きなの、何でもいいよ。』
『ラっ、ラーメン!』
『またぁ....?』
『......。』
ああ麗しのラーメンよ、
もうどこにも行かないでおくれ。
~おしまい~