ノコの日記/第二話
でも僕は、密かにノコを好きだった。
恋してたんだ。
しかし彼女は、脳の腫瘍が急に進行してしまい、治療の甲斐なく...。
あっという間だった。
僕はノコがいなくなってしまってからは、誰かを好きになった事はない。
『でもおまえさぁ~、
相変わらずペッタンコだなぁ。』
『こらぁ!
しょうがないだろ!
あの時のまんまなんだから!』
ノコは、少し顔を赤くしながら両手をクロスさせ、胸元を隠した。
そんなノコがたまらなく可愛かった。
また恋してしまいそうだ。
『とにかく、傘の事、思い出してみる。』
『頼むよーっ。
君にかかってるんだからね!』
『もしさ、見つからなかったら?』
『多分あたしは一生君に付きまとうことになるかも..。』
『そんな..恐ろしい!』
『恐ろしいって....
あたしがまるでお化けみたいじゃないよ!』
『違うのかよー。』
『あっ、そうだったんだ。
とにかく、あまり時間がないみたいなの。
お願いね。』
『わかった。』
『また明日も来るよ。
バイバーイ。』
『ノコっ!』
行ってしまった。
夢?それとも....。
ノコが去った後、僕自身がどこかに忘れ物をしているような気持ちになった。
げた箱の横に立ててある傘を、全て引っ張り出して、一本ずつ丁寧に調べた。
どの傘にもウチの家族の名前しか書かれていない。
『まあ、この子ったら。傘屋でも始めるつもりかしら?』
『母さん、今度また受験に失敗したらそうするよ。』
傘を一本ずつ、丁寧に調べながら、自分の中で氷のような何かが溶けだすみたいな、
そんな不思議な感覚にとらわれた。
物置や押し入れ、タンスの中も全部調べた。
ノコの傘はどこにもない。
だが、タンスの引き出しの奥から、消印されてないノコ宛ての手紙が出てきた。
書いた記憶は全く無いが、確かに僕の筆跡だ。
中身はラブレターだった。
渡す事の出来なかった、決してもう渡す事はない、悲しいだけの手紙だ。
僕は手紙を封筒に戻し、引き出しの奥へそっとしまった。
翌日、ゼミは休み。
向かったのは、僕とノコが通った中学校。
校舎も体育館もそのままだった。
吹奏楽部がロングトーンの練習をしている。
『音楽室かあ。
懐かしいな。
そういえば高校の頃は、よく音楽室でお弁当食べて、昼寝したもんだ。』
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