ノコの日記/第二話

Studio West

2010年10月15日 01:48

でも僕は、密かにノコを好きだった。
恋してたんだ。

しかし彼女は、脳の腫瘍が急に進行してしまい、治療の甲斐なく...。
あっという間だった。

僕はノコがいなくなってしまってからは、誰かを好きになった事はない。

『でもおまえさぁ~、
相変わらずペッタンコだなぁ。』

『こらぁ!
しょうがないだろ!
あの時のまんまなんだから!』

ノコは、少し顔を赤くしながら両手をクロスさせ、胸元を隠した。

そんなノコがたまらなく可愛かった。
また恋してしまいそうだ。

『とにかく、傘の事、思い出してみる。』

『頼むよーっ。
君にかかってるんだからね!』

『もしさ、見つからなかったら?』

『多分あたしは一生君に付きまとうことになるかも..。』

『そんな..恐ろしい!』

『恐ろしいって....
あたしがまるでお化けみたいじゃないよ!』

『違うのかよー。』

『あっ、そうだったんだ。
とにかく、あまり時間がないみたいなの。
お願いね。』

『わかった。』

『また明日も来るよ。
バイバーイ。』

『ノコっ!』

行ってしまった。
夢?それとも....。
ノコが去った後、僕自身がどこかに忘れ物をしているような気持ちになった。

げた箱の横に立ててある傘を、全て引っ張り出して、一本ずつ丁寧に調べた。

どの傘にもウチの家族の名前しか書かれていない。

『まあ、この子ったら。傘屋でも始めるつもりかしら?』

『母さん、今度また受験に失敗したらそうするよ。』

傘を一本ずつ、丁寧に調べながら、自分の中で氷のような何かが溶けだすみたいな、
そんな不思議な感覚にとらわれた。

物置や押し入れ、タンスの中も全部調べた。
ノコの傘はどこにもない。

だが、タンスの引き出しの奥から、消印されてないノコ宛ての手紙が出てきた。

書いた記憶は全く無いが、確かに僕の筆跡だ。

中身はラブレターだった。
渡す事の出来なかった、決してもう渡す事はない、悲しいだけの手紙だ。

僕は手紙を封筒に戻し、引き出しの奥へそっとしまった。

翌日、ゼミは休み。

向かったのは、僕とノコが通った中学校。
校舎も体育館もそのままだった。

吹奏楽部がロングトーンの練習をしている。

『音楽室かあ。
懐かしいな。
そういえば高校の頃は、よく音楽室でお弁当食べて、昼寝したもんだ。』
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